京都大学医学部附属病院 脳神経外科

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頸動脈狭窄症

頸動脈狭窄症とは

動脈硬化等が原因で、心臓から脳に血液を送る主要な通り道である頸部の動脈が狭くなることを、「頚動脈狭窄症」と言います。動脈硬化は、血管の壁の厚みが増すことから始まる現象で、年齢が上がるにつれて多少の変化は一般的に認められます。脂質の多い食事習慣や運動不足、体質的な要因、高血圧や糖尿病などの危険因子が加わった場合に、このような変化が更に進行し、「プラーク」と呼ばれる動脈硬化病変が形成されます。同じ厚さのプラークでも、脳梗塞を起こす危険の高い「不安定」プラークと、危険の低い「安定」プラークがあります。(図1)
わが国においては、食習慣や生活スタイルの欧米化に伴い、動脈硬化に由来する病気は急速に増加しており、頸動脈狭窄症に対する治療についてもその重要性がますます高くなっています。

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図1: 安定プラークと不安定プラーク

頸動脈狭窄症に対する治療法

頸動脈狭窄症の患者さんでは、プラーク表面に出来た血液の塊(血栓)や、プラークの破片が血流に流されて、その先の脳血管が詰まると脳梗塞になります。(図2)また、狭窄率が高くなると、脳へ送る血流の勢いが低下することによって、脳梗塞になることもあります。
狭窄率が低い場合は、まず生活習慣の改善を行い、更に必要に応じて抗血小板剤(血液をサラサラにしてプラーク表面に血栓が付着しにくくする薬剤)や、抗高脂血症剤(コレステロール値を下げて、プラークを安定化させる薬剤)による内科治療を行うのが一般的です。
狭窄率が高くなると、脳梗塞を予防するために、もとの太い血管に戻す外科治療を検討した方が良い場合が有ります。具体的には、全身麻酔のもとで頸動脈を切開してプラークを摘出する内膜剥離術と(図3)、狭くなった頸動脈を風船付きのカテーテルで拡張した後に、金属を円筒状に編みこんだ治療用器材(ステント)を狭くなっていた部分に置いてくることで確実な血管拡張を目指すステント留置術(図4)の二つが有ります。内膜剥離術・ステント留置術には、それぞれに、表に示したような長所・短所があります。(図5)

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図2: 内頚動脈内膜剥離術

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図3: 頚動脈ステント留置術

内膜剥離術 ステント留置術
  • プラーク自体を摘出して血管を広げる治療である
  • 手術に伴う脳梗塞(合併症)発生率は低い
  • 全身麻酔が必要であり全身への負担は大きい
  • 頚部に手術創が残る
  • 狭くなった血管をステントにより押し広げる治療である
  • 局所麻酔で治療できるため全身への負担が少ない
  • プラークの性質によっては手術に伴う脳梗塞(合併症)に注意が必要
  • 造影剤を使用するためもともと腎臓の悪い患者さんは注意が必要

表: 内膜剥離術とステント留置術の特徴

当科の特色

MRI検査や超音波検査を用いてプラークの状態を正確に評価し、更に、患者さんの全身状態も十分にチェックします。内膜剥離術・ステント留置術それぞれに熟達した術者が、各治療法の長所・短所を参考に検討した上で、個々の患者さんに、より適切と思われる治療法をお勧めします。いずれの外科治療も危険性が高いと判断した場合は、内科治療を強化して経過をみる場合もあります。いずれの外科治療でも同じくらいの安全性で行えると判断した場合は、それぞれの治療法の特徴をご理解いただいた上で、患者さんに選んで頂きます。「狭くなった血管を広げること」を目的とするのではなく、「脳梗塞予防を基本として、患者さんのQOL(生活の質)を保つこと」を目標に治療することを心がけています。