京都大学医学部附属病院 脳神経外科

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頭蓋内胚細胞腫における(1)bifocal tumor の意義、(2)髄液細胞診陽性症例の治療についての後方視的研究

1990 年 1 月から 2015 年 12 月までに、京大病院脳神経外科で、治療を受けられた頭蓋内胚細胞腫の患者さんへ

研究課題名:頭蓋内胚細胞腫における(1)bifocal tumor の意義、(2)髄液細胞診陽性症例の治療についての後方視的研究

研究目的
頭蓋内胚細胞腫は東アジアに頻度が高く、欧米においてはかなり稀な疾患です。
2016 年、頭蓋内胚細胞腫の診断と治療に関する国際グループによる診断・治療・予後に関する 34 項目のコンセンサスが発表されましたが、以下の 2 つの問題については合意が得られず、持ち越しとなり、解明すべき重要な問題と考えられます。
なお、本研究の先行研究は 2016 年に開始し、一旦学会にて研究成果を発表しましたが、追加調査が必要となり、あらためて本研究を計画しました。
(1) 尿崩症を伴うbifocal lesion が腫瘍マーカー陰性の場合、ジャーミノーマと診断してよい、という仮説はどの程度正しいか
ジャーミノーマにおいては、手術で全摘することは予後因子とはならず、診断さえ確かであれば、化学療法と放射線照射によって 80%以上は治癒させることが出来ます。特に本腫瘍の好発部位は松果体や神経下垂体であり、直達手術は難易度も高く、たとえ近年の内視鏡手術によっても手術の危険は無視できないため、MRI や臨床情報のみからジャーミノーマと診断し、治療を開始できる症例を見極めることは重要です。
この点から松果体と神経下垂体同時発生のいわゆる『bifocal lesion』は胚細胞腫であること強く示唆し、これに加えて同時に『尿崩症あり』『腫瘍マーカー陰性』の症例は高い確率で、組織診断がジャーミノーマであり、生検は不要という考え方が存在します。これが正しければ、組織診断のための手術を行わないで、治療を開始することによって治癒させることが出来るため患者にとってのメリットは大きいと考えられます。
実臨床の場において、上記 3 条件を組織診断を行わないでジャーミノーマとして治療を開始できるか否かは、ジャーミノーマ以外の病理を有する症例の発生確率に左右され、この確率は解明すべき問題と考えました。この問題の解決のため、上記3 条件を満たす症例を多数例集積し、臨床経過と病理診断を後方視的に検討し、ジャーミノーマである確率、ジャーミノーマ以外である確率を先行研究で明らかにしました。結果、上記3 条件を満たす症例は約90%がジャーミノーマであることが判明しました。しかしジャーミノーマとジャーミノーマ以外の症例では予後・治療方法が異

なるため、適切な治療を行うには正確な診断が必要である。診断は組織生検によるため、低頻度のジャーミノーマ以外の症例を診断するための組織生検の正当性を検証するには、組織生検に伴うメリット、デメリットを明らかにする必要があります。メリットについては組織診断を行う際に同時に、『第三脳室底開窓術』や『脳室ドレナージ』などの急性水頭症に対する処置ができること、デメリットについては組織診断に伴う合併症、死亡率があげられます。この両面について検討を加えます。
(2) 髄液細胞診陽性のジャーミノーマにおいて、全脳脊髄照射が必要かどうか。
術前の髄液細胞診検査において陽性である場合、脊髄播種あるいは転移と診断し、画像上描出される頭蓋内の病変だけでなく、全脳全脊髄に対する放射線治療を行うべきか否かという問題があります。欧米の治療方針では髄液細胞診陽性である場合 は髄液播種と診断し、24 Gy の局所放射線治療に加えて 30 Gy の全脳全脊髄照射が行われています。一方、日本では髄液細胞診の髄液播種検出の感度・特異度に
ついて明らかではないため、髄液細胞診の結果に基づいて、治療方針を決定することは一般的ではありません。そこで、髄液細胞診陽性であった症例において、治療前の MRI での播種病変の拡がりを検討し、画像所見との相関を明らかにするとともに、照射範囲ごとにどのような臨床経過をたどったかを後方視的に検討し、適切な照射範囲について明らかにすることを目的に検討しました。
その結果、再発率には全脳全脊髄照射では差はないという結果で、全脳全脊髄照射は必ずしも必要ではないことが示唆されました。問題点としては、細胞診を行った時期が不明であり、生検などの後に物理的に髄液に流出し、陽性と判断された例も含まれた可能性があり、採取時期についても明らかにする必要があると考えられました。

研究の対象
1990 年 1 月から 2015 年 12 月までに、京大病院脳神経外科で、治療を受けられた頭蓋内胚細胞腫の患者さんで、2016 年に実施した本研究の先行研究(R0583)で対象とした患者さんのうち、次のいずれかを満たす方。
A) MRI で、『松果体部と神経下垂体部の病変が存在』、『尿崩症がある』、『AFP,
HCG、HCG-beta などの腫瘍マーカー陰性』の 3 項目を満たす方
B) 髄液細胞診が陽性で、組織診断が行われた方

研究期間
2019 年 3 月(倫理委員会承認後)から 2024 年 1 月まで

研究方法
当院医の倫理委員会において審査、研究計画の承認を得、研究機関の長による許可を得たのち、対象となる患者さんの診療録、画像、病理所見などについて、調査し、研究事務局に提出します。この際、患者さんの情報は、個人を特定する情報を削除し、記号や符号などに代えること(匿名化)で、個人情報の保護に務めます。本研究について、実施過程およびその結果の公表(学会発表や論文など)の際に、患者さんを特定できる情報は一切含まれません。

研究の対象の A、B に該当する患者さんについて、それぞれ次の項目を調査し、研究事務局に提供し、研究事務局では、収集した情報を集計・解析します。
A) 『松果体部と神経下垂体部の病変が存在』『尿崩症がある』『AFP, HCG、HCG-beta などの腫瘍マーカー陰性』のの 3 項目を満たす方
①組織診断施行時の合併症
②脳室ドレナージ・第三脳室底開窓術施行
③術後の水頭症の有無と治療
B) 髄液細胞診が陽性で、組織診断が行われた方髄液細胞診の施行時期

情報の提供・保管
臨床情報提供先:
東北大学大学院医学系研究科 神経外科学分野 金森政之仙台市青葉区星陵町1-1 022-717-7230

本研究において収集された情報は、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」12 の1
(3)及び(4)により、求められる所定の期間(提供を受ける場合は当該研究の終了が報告された日から 5 年間)の保管を厳守します。
『京都大学における公正な研究活動の推進等に関する規程第7条第2項の研究データの保存、開示等について定める件 平成 27 年 7 月 30 日 研究担当理事裁定制定』の規定により、
京大病院で保存するデータ、各種記録の保存期間は当該論文等の発表後少なくとも 10 年とします。

研究組織
旭川医科大学脳神経外科 鎌田恭輔・安栄良悟
札幌医科大学脳神経外科 三國信啓・秋山幸功
北海道大学脳神経外科 寳金 清博・山口秀
秋田大学脳神経外科 清水宏明・小田正哉
山形大学脳神経外科 園田順彦・松田憲一郎
東北大学神経外科学 冨永悌二・斎藤竜太
独協医科大学脳神経外科 植木敬介・宇塚岳夫
筑波大学脳神経外科 松村明・松田 真秀
埼玉医科大学国際医療センター包括的がんセンター脳・脊髄腫瘍科 西川亮・鈴木智成
埼玉県立小児医療センター血液・腫瘍科 康勝好
東京大学脳神経外科 斉藤延人
日本大学脳神経外科学 吉野篤緒・山室俊
杏林大学脳神経外科 永根基雄
東京医科大学脳神経外科 秋元治朗
東京慈恵会医科大学小児科 山岡正慶
北里大学脳神経外科 隈部俊宏・柴原一陽
昭和大学藤が丘病院小児科 磯山恵一・山本将平
信州大学脳神経外科 本郷一博・金谷康平
浜松医科大学脳神経外科 難波宏樹・徳山勤
富山大学脳神経外科 黒田敏・富田隆浩
名古屋大学脳神経外科 若林俊彦・夏目敦至・本村和也
名古屋市立大学脳神経外科 間瀬光人・坂田知宏
三重大学病院脳神経外科 鈴木秀謙・畑崎聖二
滋賀医科大学脳神経外科 野崎和彦・深見忠輝・設楽智史
京都大学病院脳神経外科 荒川芳輝
大阪医科大学脳神経外科 黒岩敏彦・池田直廉
大阪医療センター脳神経外科 金村米博・木嶋教行
関西医科大学脳神経外科 淺井昭雄・埜中正博
近畿大学脳神経外科 泉本修一
和歌山県立医科大学脳神経外科 中尾直之・深井順也
神戸大学脳神経外科 甲村英二・篠山隆司
鳥取大学脳神経外科 黒崎雅道・神部敦司
愛媛大学脳神経外科 高野昌平
九州大学脳神経外科 飯原弘二・空閑太亮
久留米大学脳神経外科 森岡基浩・中島慎治
福岡大学脳神経外科 井上亨・安部洋
佐賀大学脳神経外科 阿部竜也・中原由紀子
長崎大学脳神経外科 松尾孝之・氏福健太
熊本大学脳神経外科学 武笠晃丈
鹿児島大学脳神経外科 吉本幸司・比嘉那優大

費用負担・研究資金・利益相反等について
本研究は、患者さんの診療情報などを収集し、解析しますが、患者さんご自身に直接利益があるわけではありません。なお、診療録等の情報を用いますので、あらたな負担は発生致しません。
患者さんの診療情報などを、本研究に使用することについて、患者さん・ご家族の方にご了承いただけない場合は研究対象とは致しませんので、下記の連絡先までお申出ください。その場合も患者さんに不利益が生じることはありません。
本研究を実施するに当たって、患者さんの費用負担はありません。また、本研究の成果が将来薬物などの開発につながり、利益が生まれる可能性がありますが、万一、利益が生まれた場合、患者さんにはそれを請求することはできません。
本研究は、東北大学神経外科学分野運営交付金を用い、特定の企業からの資金は一切用いません。
当院における利益相反について、「京都大学利益相反ポリシー」「京都大学利益相反マネジメント規程」に従い、「京都大学臨床研究利益相反審査委員会」において適切に審査・管理しています。

お問い合わせ先
本研究に関するご質問等がありましたら下記の連絡先までお問い合わせ下さい。
ご希望があれば、他の研究対象者の個人情報及び知的財産の保護に支障がない範囲内で、研究計画書及び関連資料を閲覧することが出来ますのでお申出下さい。
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連絡先と相談窓口
研究責任者:脳神経外科 特定講師 荒川芳輝
京都大学医学部附属病院 脳神経外科
〒606-8507 京都市左京区聖護院川原町 54 TEL:075-751-3459, FAX:075-752-9501

相談窓口:京都大学医学部附属病院 相談支援センター
TEL:075-751-4748 E-mail: ctsodan@kuhp.kyoto-u.ac.jp

研究代表者:神経外科学分野 金森政之
東北大学大学院医学系研究科

仙台市青葉区星陵町1-1 Tel:022-717-7230