京都大学医学部附属病院 脳神経外科

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脳梗塞

脳梗塞とは、脳血管が閉塞し、血流が少なくなることで、脳神経細胞が機能障害をおこし、様々な神経症状を出す病気です。左右どちらかの半身の麻痺や感覚障害、ろれつ困難がでます。失語症、意識障害、視野の半分が見えにくい(同名半盲)、体のバランスがとれない(失調)などの症状がでることもあります。tPA による血栓溶解療法や血管内治療による血栓回収療法の登場によって、重篤な症状であったにもかかわらず、劇的な回復を見せる例もみられるようになりました。これらの再開通療法は、発症後数時間以内に行わないと神経機能の回復は困難になりますので、上にある症状を自覚したらすぐ医療機関を受診しましょう。

病型

血管閉塞の病因により、大きく4つの病型(①心原性脳塞栓症、②アテローム血栓性脳梗塞、③ラクナ梗塞、④その他)に分類されます。それぞれに重症度、急性期治療、再発予防が異なりますので、できるだけ早く病型の診断をつけて、適切な治療へとつなげます。

1) 心原性脳塞栓症

心臓由来の血栓が血流に乗って脳血管を閉塞させます。そのため、血管近位部で閉塞することも多く、症状も重篤です。梗塞巣が大きい場合には脳ヘルニア回避のために開頭減圧手術を考慮します。再発を予防するため抗凝固薬を開始します。

2) アテローム血栓性脳梗塞

頚動脈や脳血管の動脈硬化性変化を原因とする脳梗塞です。抗血栓薬を点滴、内服で開始します。症状が進行しやすいのが特徴で、薬物治療にもかかわらず症状が悪化する場合は手術による血行再建術を考慮します。

3) ラクナ梗塞

脳深部の穿通枝と呼ばれる微小血管の変性による脳梗塞です。長期間にわたる高血圧への暴露が原因です。抗血小板薬の内服が治療の主体です。

4) その他の脳梗塞

それぞれの病態に応じた治療を行いますが、抗血栓治療 + 輸液管理が標準となります。

いずれの場合も、運動麻痺に伴い嚥下障害を呈することが多いので、言語聴覚士と共に嚥下機能を評価し、安全な栄養手段を確立すると共に、心不全、誤嚥、肺炎、尿路感染、下肢静脈血栓症、肺塞栓などの合併症を予防します。急性期より積極的にリハビリテーションを行い、回復期リハビリテーションへとつなげ、機能回復を目指します。

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一過性脳虚血発作 (TIA:transient ischemic attack)

一過性脳虚血発作 (TIA: transient ischemic attack)とは、脳の血管の狭窄や閉塞によって脳血流が局所的に減少し、運動麻痺などの神経症状を出した後、血流が再開することで症状が改善した、脳梗塞の一歩手前の状態です。TIAの原因も脳梗塞の4病型(心原性脳塞栓、アテローム血栓症、ラクナ梗塞、その他)と同じです。たまたま血流が再開し、症状が一時的によくなっただけなので、きちんと原因に対する治療をしないと、すぐ再発して、永続的な機能障害を残す可能性があります。TIAは過ぎ去った過去の想い出ではなく、これから来る嵐のプロローグなのです。

超急性期治療

血栓溶解療法 (tPA 静注療法)

2005年より、tPA(組織プラスミノーゲン活性化因子:アルテプラーゼ)の点滴による、血栓溶解療法が認可されました。発症4.5時間以内に治療開始可能で、厳格な適応基準をみたす場合のみ投与が可能です。脳梗塞発症後、日常生活が自立して行える人の割合が3人に1人であったものを、tPA投与により2人に1人まで改善させたと国内外で報告されています。一方、血栓溶解薬による易出血性により、出血性梗塞による症状悪化が0.6%から6.4%に、死亡例は0.3%から2.9%に増加しており、投与後もSCU(stroke care unit:脳卒中ケアユニット)での厳重な管理が必要です。

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tPA投与により閉塞血管(左図矢印)が再開通(右図矢印)し、症状は劇的に改善した。

血栓回収療法

脳血管の近位部の閉塞で、血流再開による神経症状の回復が期待される場合、カテーテルを通じて血栓回収用機器(Merci Retriever, Penumbra System、 Stent Retriever –Solitaire FR, Trevo Provue- など)を脳深部の血管まで進め、血栓を直接回収する治療です。再開通までの時間により機能回復の程度が異なります。脳血管を損傷すればクモ膜下出血などの重篤な合併症を引き起こす可能性もあります。この治療を安全かつ迅速に行えるよう、当院では脳血管内治療学会認定専門医による治療が24時間365日可能な態勢を整えています。

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tPA静注療法無効の近位部閉塞(左図)に対し、Penumbra,Stent Retriever(SolitaireFR)を用いて血栓回収を行い(中央図)、完全再開通し(右図)、症状は劇的に改善した。