京都大学医学部附属病院 脳神経外科

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くも膜下出血

 クモ膜下腔に出血が起こった状態を言います。クモ膜下腔とは脳の周りの空間で、脳脊髄液で満たされており、脳血管も走行しています。クモ膜下出血が起こる第一の原因は、脳動脈にできた瘤(脳動脈瘤)の破裂です。ほかには脳動静脈奇形や、頭部外傷でも起こることがあります。以下では脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血について説明します。

 脳動脈瘤が破裂すると、血液は瞬く間にくも膜下腔を回りこみ、髄膜が刺激されたり、頭蓋内圧が急激に上昇するなどして突然の頭痛や意識障害をきたします。
 クモ膜下出血は一般的には後遺症なく社会復帰できるのは、3割に満たないとも言われるほど予後が非常に悪い病気ですが、頭痛を認めるだけのような軽症から、急に深昏睡となったり即死状態となるような重症なものまであり、発症時の重症度でもかなり予後が異なってきます(表参照)。また、破裂直後から24時間以内は特に再破裂の危険性が高いと言われています。再破裂を起こすと生命に関わる確率が格段に上がるため、出血源を出来るだけ早く発見してなるべく早くに再破裂を起こさないように動脈瘤を処置するのが主流となっています。

 クモ膜下出血急性期の治療は、大きく2つの方法に分けられます。

  1. 脳動脈瘤クリッピング術
    全身麻酔の手術です。頭皮を切開し、頭蓋骨を一部取り外してくも膜下腔を経由して脳動脈瘤に到達し、動脈瘤にクリップをかけます。
  2. 脳動脈瘤コイル塞栓術
     こちらもほとんどが全身麻酔で行われます。太ももの付け根から動脈に管を入れ、血管の中から動脈瘤に到達し、治療用の細いカテーテルを用いて動脈瘤をプラチナ製のコイルで充填するものです。

 クリッピング術、コイル塞栓術ともにクモ膜下出血急性期の治療としては確立されたものです。それぞれの方法に固有の特徴があり、クモ膜下出血を来した患者さんの年齢や全身状態、動脈瘤の場所、大きさ、形状などに応じてどちらかの治療を選択することになります。

 急性期の治療が終わっても、これで治療が終わり、というわけには行かないところがクモ膜下出血治療の難しいところです。脳の周りに回り込んだ血液が脳血管に悪影響を与え、脳血管れん縮を引き起こします。脳血管が縮んでしまうのです。重度になると脳に血流が送られなくなり、脳梗塞をきたすことがあるため最大限の注意を払う必要があります。クモ膜下発症後、4日目から14日目までに起こりやすいとされ、この期間は集中治療室で厳密な管理を行うのが一般的です。脳血管攣縮予防の治療としては、脱水や電解質の異常がれん縮悪化の要因となるため、これらを防ぐような体液管理が行われます。ほかに、れん縮の原因となるくも膜下腔の血液を排出するように脳槽ドレナージや脊髄ドレナージを行います。もしれん縮が重度となったら、緊急の血管内治療でれん縮の起こった血管にカテーテルを誘導して血管拡張薬を注入したり、バルーンで狭くなった血管を広げるなどして対応します。

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 再破裂や脳血管攣縮を乗り切ればクモ膜下出血の治療は一段落と言えます。しかしながらこの後も水頭症をきたすことがあり、場合によってはシャント手術が必要になることがあります。

 脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血は、急性期の手術や数週間の集中治療が必要になる非常に重篤な疾患です。京都大学脳神経外科では脳卒中急性期治療に特化した集中治療室、24時間急性期治療を行うことのできる体制、クリッピング術とコイル塞栓術のどちらでも対応可能な人材を備えており、万全の体制でクモ膜下出血の治療に取り組んでいます。

また、急性期治療を終えた患者さんが継続してリハビリテーションに取り組めるよう、院内のリハビリテーション部や回復期リハビリテーション病院とも密接に連絡を取り合い、急性期から回復期へのスムーズな移行ができるようになっています。