京都大学医学部附属病院 脳神経外科

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脳動静脈奇形 (AVM)

どのような病気ですか?

脳動静脈奇形(AVM)は脳の中にできた「血管のかたまり」のようなものです。脳内の動脈と静脈が「血管のかたまり」(ナイダスといいます)で直接つながっており、大量の血液が流れています。胎児期(出生前)から小児期にかけて発生することがほとんどで、成人以降に新たに発生することはほとんどありません。

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どのような症状がありますか?

AVMができただけではほとんど症状がありません。 しかし、「血管のかたまり」であるナイダスが破れると脳出血やくも膜下出血を起こします(出血発症型)。また、手足がひきつる発作の原因となっていることもあります(けいれん発症型)。頭の片方が定期的に痛むという偏頭痛の原因になっていることもあります。

AVMが見つかったら、必ず治療を受けた方がよいですか?

1)破裂AVMの場合

くも膜下出血や脳出血で発症してAVMが原因と診断された場合、高率に再出血をしますので、できる限り治療を受けた方がいいでしょう。出血を起こした場合、最初の1年間は特に再出血の確率が高く(年間6.0-17.8%)、2年目以降は破裂をしていないAVMと同程度(年間約2%)になると言われています。破裂をした場合でも、AVMが非常に大きい場合や脳の深い部分にある場合などは、血圧管理などの内科的な治療のみを行う場合もあります。

2)未破裂AVMの場合

一度も破裂をしていないAVMは、破裂AVMと違って、出血する確率はそれほど高くありません(年間2%程度)。原則的にはまず経過観察をお勧めしますが、年齢が若い方で、AVMが表面にあり、サイズがそれほど大きくなく、周辺に重要な脳機能がない場合で安全に治療が可能と判断する場合、治療をお勧めしています。

どのような治療法がありますか?

AVM治療には基本的に3通りの方法があります。1)開頭手術によりナイダスを摘出する外科的摘出術、2)カテーテルによりナイダスの中を固めてしまう血管内治療(塞栓術)、3)放射線によりナイダスを閉塞する定位放射線治療の3つです。

1)開頭手術

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ナイダスを摘出しますので、出血を予防する効果が直ちに得られるのが最大の利点です。一方、開頭手術で脳に切開を加えますので、侵襲の高い治療です。


2)血管内治療

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ナイダスの中を段階的に液体状の塞栓物質で固めていく方法です。小型のAVMでは血管内治療のみでも完全な治療を行うことができる場合がありますが、ある程度の大きさになると、血管内治療のみでは完全な治療とならないため、開頭手術や底放射線治療を組み合わせて治療を行います。


 

3)定位放射線治療

体に一切切開を加えない最も侵襲の小さい治療で、ガンマナイフで行われます。病巣部位や流入血管の状況、合併症の有無などにより外科的手術の危険が高く、病巣が10mL以下または最大径3cm以下では定位放射線治療が勧められます。放射線を照射してから完全に閉塞するまでに数年程度の時間がかかります。小型のAVMでは放射線のみで完全な治療を行うことが可能ですが、血管内治療と同様、ある程度の大きさになると、放射線のみでは確実な治療とはならないので、開頭手術や血管内治療を組み合わせて治療を行います。

京都大学のAVM治療の特徴は何ですか?

1)AVMセンター

AVM治療は脳血管疾患の中では最も治療が難しい疾患の一つであり、京都大学脳神経外科は近隣病院や京都大学関連病院などから多数の患者さんが紹介されて集まる全国有数の「AVMセンター」の一つです。なかでも、高い技術を誇るマイクロサージェリーを活かした開頭手術と液体塞栓物質Onyxを用いた血管内治療の組み合わせ治療は当院の最大の特徴です。年間約30例程度のAVM患者が紹介されて、年間約15例程度のAVM治療を行っています。2009年5月以降では約60例のAVM治療を行いました。治療の内訳は図の通りで、約半数は開頭手術+血管内治療の組み合わせで治療を行いました。20%は放射線治療単独、10%は開頭手術単独治療です。また、完全な治療が困難な大型AVMや深部のAVMも、血管内治療や放射線治療を駆使して、治療を行っています。

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2)開頭手術と血管内治療の利点を組み合わせた集学的治療

開頭手術の利点はAVM摘出後より直ちに出血予防効果が得られることですが、「血管のかたまり」であるAVMの摘出は決して容易ではありません。手術中に出血をし始めるとなかなか止血に至るのが困難な場合があります。一方、血管内治療の利点は、頭部を切開することなく、足の付け根の血管からカテーテルを挿入してナイダスを液体状の塞栓物質で閉塞できることです。私たちの病院では、まず血管内治療によりナイダスを固めてしまってから、ほとんど血流が流れない状態にしてから開頭手術を行います。このため、ナイダスの摘出時にほとんど出血をさせることなく、周辺の脳の損傷を最小限にしてナイダスのみを安全に摘出することができます。

3)高精度の脳機能画像

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脳の中に埋没するAVMの治療において、AVMの周辺の脳がどのような機能を司っているかを術前に当院脳機能グループが徹底的に検査を行います。手術中にこの画像を閲覧しながら、周辺の脳機能を障害しないように注意して慎重に治療を行います。


4)ハイブリッド手術室

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通常、血管内治療は血管造影室、開頭手術は手術室で行われます。しかし、破裂AVMなどは時間的余裕がありません。このため、開頭手術+血管内手術を同時に行う必要があります。このような場合、当院では「ハイブリッド手術室」で行います。従来、脳血管撮影室に設置される脳血管撮影装置を手術室内に設置しており、血管内手術に引き続き、開頭手術を行うことができます。AVM摘出後は直ちに同じ部屋で脳血管撮影によりAVMの摘出を確認することができます。