京都大学医学部附属病院 脳神経外科

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国内初 高磁場3テスラMRI手術室システム稼働

京都大学医学部附属病院は、国内で初めてとなる高磁場3テスラMRI手術室システムの稼働を始めます。 

■稼働日:平成26年10月30日
■場 所:京都大学医学部附属病院 手術部
■高磁場3テスラMRI手術室について

 京大病院では、高度な外科医療を支援できる術中画像診断システムとして統合型高性能画像診断サーキットintegrated Smart Imaging Circuit (iSIC)を手術室に設置する事業を進めております。今回、その一環として国内で初めて高磁場3テスラMRI手術室システムの稼働を始めます。  
 脳神経外科・脊髄外科・頭頸部外科においては、高度な技術と修練を要するハイリスクな手術が増加しています。MRIは、コントラスト分解能が高く、様々な撮像法が可能です。そこで、手術中にMRIでリアルタイムに術中診断を行うことは、手術精度の向上、合併症の回避に非常に有用です。国内では、すでに低磁場MRIを設置した施設で術中MRI撮像を用いた手術が実施されています。最近、海外の施設では、高磁場3テスラMRIを手術室に設置し、精度の向上だけでなく、高磁場で可能となるハイレベルな手術に応用されていますが、未だ国内では高磁場によるリスクもあり、設置する施設はありませんでした。しかし、高磁場3テスラMRIは、診断画像や脳機能画像を撮像するスタンダードな機器となっており、手術支援として3テスラMRIの設置が望まれていました。
本手術システムの特徴は、高磁場3テスラMRI装置を手術エリアに設置し、術前・術中・術後のMRI撮影を迅速に行い、正確な手術の支援ができることです。連動する最新のナビゲーションは、術中のMRI画像を3次元構成し、リアルタイムに標的臓器を立体的に把握することが可能です。さらに、高磁場で可能となる脳機能画像(脳機能マッピング)・MRスペクトロスコピー(生体内分子解析)・トラクトグラフィ(神経線維画像)といった最新の撮像法を用いた手術を予定しています。
京大病院では、高磁場3テスラMRI手術室、昨年から稼働した次世代型ハイブリッド手術室、今後設置予定の移動型CT手術支援システムを連携させることで、治療に伴う患者さんの負担軽減と機能改善・温存を目指して治療困難な疾患に取り組んでまいります。

■手術室の設備について

① 高磁場3テスラMRI手術室と脳機能画像撮像装置
ボア径70 cmが特徴であるSiemens社MAGNETOM Verioは、手術中に有用な大きな撮像視野を持つ高磁場3テスラMRI装置です。
MRI装置へ患者輸送ができる高性能多目的手術台と連動してNORAS社ヘッドコイル8チャンネルとBrainlab撮影用マトリクスを用いることで術中にMRI撮像が安全に実施できます。脳機能画像の撮像・解析のために、視覚刺激装置、被験者反応取得装置、データ解析システムが備わっています。

② ナビゲーションシステムと画像情報管理システム
手術中のナビゲーションとなるBrainlab社CurveTMシステムは、術中に得られたリアルタイムの画像情報を三次元構築し、病変のより詳細な位置の同定や危険部位の認識をサポートします。本手術室で術中に得られたリアルタイムの画像情報を術前の画像情報と統合するデータマネージメントシステムとなるBrainlab社BuzzTMシステムは、当院が既に導入している高機能な画像診断機器から得られる多種多様な術前の画像情報を用いて融合画像を作成できるマネージメントが可能であります。融合画像をもとに立てられた治療計画に基づき、術中の画像と効率的に統合することにより治療効率をさらに高められることが可能となります。

【高磁場3テスラMRI手術室】

■高磁場3テスラMRI手術室で可能な疾患及び治療法

高磁場3テスラMRI手術では、次のような疾患に対する治療が可能となります。
  
【神経膠腫(グリオーマ)】(脳神経外科)
神経膠腫は、脳組織から発生する腫瘍の総称であり、様々な腫瘍があります。多くの神経膠腫は、正常脳に浸潤性に進行する性質が強く、根治を目指した切除は容易ではありません。しかし、可能な限り切除を行うことが予後に関連します。最も悪性度の高い膠芽腫では、78%以上の切除が効果的とする報告もあります。
重要な機能領域に進行した神経膠腫では、機能障害を来さない限界まで切除が要求されます。そこで、京大病院では、これまでに覚醒下状態での脳機能モニタリング、電気性理学的な神経機能・神経連絡のモニタリングを用いてきました。高磁場3テスラMRIと最新ナビゲーションシステムの導入で、リアルタイムな切除評価と神経線維評価を行うこと可能となり、より安全で正確な腫瘍切除が可能となります。悪性神経膠腫では、PDT半導体レーザを用いた光線力学療法を追加することで周囲に残存する腫瘍細胞を死滅させます。
脳腫瘍覚醒下マッピング、PDT半導体レーザを用いた光線力学療法は、本邦で平成26年4月より、保険承認が得られた新しい治療であります。 

高磁場3テスラMRIにより、手術中にリアルタイムに摘出率や神経線維との関係を確認できる。

【下垂体腺腫】(脳神経外科)
下垂体腺腫は、下垂体にできる良性の腫瘍です。原発性の脳腫瘍の中で、3番目に多い腫瘍です。手術治療には、経蝶形骨洞手術といって、鼻の奥から摘出する方法と、開頭手術で摘出する方法とがあり、腫瘍の大きさや形状で使い分けます。内視鏡を用いて手術をしますが、鼻の奥で操作であり、腫瘍摘出程度や腫瘍周囲状態を十分に確認するのが難しいことがあります。

下垂体腺腫における1.5テスラMRIと3テスラMRIの画像所見の違い。
3テスラMRIでは腫瘍、腫瘍周囲の構造が明確に判断できる。
【頭蓋底髄膜腫、脊髄腫瘍、脊椎病変など】(脳神経外科・整形外科)
 頭蓋底、脊髄、脊椎など頭蓋骨や脊椎骨に囲まれた領域は、レントゲンやCTでは骨の影響で病変の進展範囲や周囲の構造物を確認することが難しく、MRIによる画像診断が非常に有用です。頭蓋底、脊髄の病変に対する手術では、患者さんの負担を軽減するために創部を小さくする傾向にあり、肉眼的に確認できる範囲が狭くなっています。そこで、高磁場3テスラMRIでリアルタイムに病変部とその周辺の構造物を確認し、安全に十分な治療を行うことができます。

【頭頸部腫瘍】(耳鼻咽喉科)
 頭頸部腫瘍とは顔面頭蓋から頸部に生じた腫瘍です。この領域には頸部、口腔、咽頭、喉頭、耳側頭骨、鼻副鼻腔などが含まれるため、頭頸部腫瘍の治療では腫瘍の根治性とともに、聴覚、平衡覚、嗅覚、味覚などの感覚と、呼吸、発声、嚥下などの機能を保つことが重要となります。頭頸部の深い部分に生じた腫瘍の治療ではこれらを両立させることは容易ではありませんが、手術中に高磁場3テスラMRIで腫瘍の範囲を確認し、ナビゲーションシステムにより手術で触っている部位を確認することにより、機能を温存しつつ十分な根治性を保った手術が可能となります。

【骨盤部腫瘍】(整形外科)
骨盤部は、脊椎、骨盤、後腹膜、多数の神経・筋組織を含む領域です。このために、骨盤部腫瘍の手術では、腫瘍の進展範囲、周囲組織の状況を術中に確認することが、目的する腫瘍切除と合併症の回避につながります。腫瘍の完全摘出を行う上で、高磁場3テスラMRIで骨盤部の状況をリアルタイム詳細な解剖学的な情報で支援をされることで、これまで困難とされた腫瘍の切除に取り組むことができます。

■診療体制について
 高磁場3テスラMRI手術室では、各診療科の医師、看護師、臨床工学技士、診療放射線技師で構成したMRI手術室安全管理スタッフを設置し、安全な治療を提供する術中MRI撮像の体制を整備しました。外科系チーム医療体制の強化により、各診療科に関わるような悪性腫瘍疾患などの治療をチームで担当し、より安全な治療を患者さんに提供できる体制が確立しています。