京都大学医学部附属病院 脳神経外科

menu

巨大脳動脈瘤

脳動脈瘤は一般的に、破裂することにより症状を出します。未破裂脳動脈瘤の年間破裂率(脳動脈瘤を持つ患者さんが破裂によりくも膜下出血をきたす確率)は、動脈瘤の大きさによって変わり、25mmを超える巨大脳動脈瘤は年間33%とも言われています。未破裂脳動脈瘤全体では0.95%と言われており、いかに破裂率が高いかがわかると思います。脳動脈瘤が大型化してくると、破裂以外の問題も出てきます。動脈瘤のまわりにある脳や神経を圧迫して、麻痺や言 語症状、視野の障害やものが二重に見える複視症状、ものが飲み込みづらくなるなどの症状を きたしてきます。
 このように、巨大動脈瘤と診断された患者さんには、小さな動脈瘤を持つ患者さんと比べてもより積極的に治療をお勧めしたほうが良い、ということになります。しかしながら、動脈瘤が大きくなるにしたがって治療が困難になってくるのも事実です。動脈瘤の今後の経過を考えると外科的治療を考えたいのだけれども、現在の医療技術では安全に治療できる見込みが低く、経過観察を選択せざるを得ない場合もあります。未破裂脳動脈瘤を持つ患者さんはみなそうですが、巨大動脈瘤と診断された場合は特に、患者さん本人と主治医の間で十分に相談した上で治療方針を決める必要があります。
 巨大動脈瘤が治療困難である主な理由は、正常な脳血管が動脈瘤に巻き込まれてしまうためです。小さい脳動脈瘤の場合、動脈瘤にクリップをかけたり瘤の中にコイルを充填したりすることで治療可能(クモ膜下出血の項参照)ですが、これをそのまま巨大動脈瘤に行おうとすると、ほとんどの場合で正常血管も病変に巻き込まれているため、治療として成り立ちません。もし正常血管が巻き込まれていなかったとしても、動脈瘤が大きくなるほどクリップをかける際の脳損傷のおそれや、コイル塞栓術での再開通の問題などが残ります。

contents07_01


 

親血管遮断術

 動脈瘤ができている血管ごと閉鎖してしまう治療法です。開頭手術で動脈瘤の前後で親血管をクリップで遮断した場合には(外科的)トラッピングと呼ばれ、血管内治療でコイルを用いた場合には親血管閉塞術やインターナルトラッピングと呼ばれます。正常血管を遮断するため、バイパス術を併用することもあります。バイパス術の併用が必要かどうかを予め判定するために、術前にバルーン閉塞試験という検査を行うことがあります。補う血流量により、浅側頭動脈や後頭動脈という頭皮を栄養する細い血管を使用する低流量バイパスや、橈骨動脈という腕の動脈や、大伏在静脈という足の静脈を使用する高流量バイパスを選択します。

バイパス併用クリッピング・バイパス併用コイル塞栓術

例えば動脈瘤が正常脳血管1本のみを巻き込んでおり、この一本の血流を補うことができればクリッピングやコイル塞栓術が可能になる、と言った場合に行います。標的血管を同定してバイパス術を行った上でこれを動脈瘤の近傍で遮断します。この時点では動脈瘤は残っている状態で、遮断した血管のみがバイパスを介して血流を受ける状態です。これに引き続いてバイパスをつないだ血管ごと動脈瘤にクリップをかけたり、コイルを充填するなどして治療を行います。場合によってはバイパス術と動脈瘤のクリッピングやコイル塞栓術を別の日に行うこともあります。

contents07_02


 

血流変更治療

 クリッピングやコイル塞栓術だけでなく、親血管閉塞術やバイパスを併用した治療が不可能な場合に検討される治療方法です。主には動脈瘤周囲から、穿通枝という非常に細い動脈が出ている場合に検討されます。穿通枝は細い動脈ですが脳深部の重要な部分を栄養していることが多く、閉塞した場合には強い症状を来してしまう血管です。非常に細いためバイパス術での再建も困難で、温存するためには動脈瘤への血流を残さざるを得ません。血流変更治療は、バイパス術を駆使して動脈瘤周囲の血管を部分的に遮断し、更に動脈瘤に直接流入する血管を遮断することで動脈瘤に入る血流の向きと量を変えて動脈瘤の血栓化を促す治療法です。穿通枝への血流を温存しつつ動脈瘤の血栓化を誘導できるような至適血流に調整するのは難しく、術前検査を詳細に検討してシミュレーションを行いますが、どれほどの効果が得られるか、術前には予想が困難な場合があります。また、一度の手術で治療を完遂するのが困難で、複数回に分けた段階的手術が必要になります。

contents07_03


血流変更ステント(整流効果ステント)治療

 上の血流変更治療と名前が似ていて混同しやすいですが、全く別の治療法です。非常にきめの細かな網目状のステントを、動脈瘤の存在する血管に橋渡しするように置くことで、動脈瘤の血栓化を促す治療法です。ステントがフィルターの役割をして動脈瘤にはいる血流が制限されるようになり、血栓化が促されます。上述の血流変更治療と同じくステントを置く部分から枝分かれする血管が問題になりますが、この治療により血流の出口がなくなる動脈瘤とは異なり、金属の網目を通して血流が保たれるとされています。動脈瘤の血栓化が得られるまでには時間がかかり、完全に血栓化して初めて破裂予防効果が発揮されます。日本では幾つかのステントが治験中で現時点では使用できませんが、まもなく認可される見込みです。

京都大学脳神経外科では、歴史的に多くの脳動脈瘤治療を行ってきました。また、別の項でもあげられる通り、頭蓋外ー頭蓋内動脈吻合術も数多く手がけています。また、脳血管内治療も早くから行っており、上に挙げたような複合的治療を非常に高いレベルで行うことが可能です。ただし、最初の項でお伝えしたとおり、巨大動脈瘤の治療は依然として難易度の高いものです。動脈瘤の状態と治療のリスクについて詳細な検討を行った上で、最善と考えられる治療法を患者さんに提案させていただきます。