京都大学医学部附属病院 脳神経外科

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てんかん

てんかん外科、迷走神経刺激

「てんかん」はどういう病気?

「てんかん」は、異常・過剰な脳の活動が起こることにより、突発的な症状(発作)が繰り返して起こる病気です。「種々の病因によってもたらされる慢性の脳疾患であって、大脳ニューロンの過剰な放電から由来する反復性の発作を主徴とし、それに変異に富んだ臨床ならびに検査所見の表出が伴う」とWHO(世界保健機関)により定義されているように、原因は様々であり、一時的な状態ではなく、脳が直接に引き起こす突発的な症状を複数回起こす病態で、症状も様々です。

その分類に関して新たな試みもなされていますが、1989年の分類がよく用いられています。発作が初めから脳全体に起こる「全般てんかん」(図1A)と脳の一部分から始まる「部分てんかん」(図1B)に分けるものです。さらに、起きる原因が明らかな「症候性てんかん」と、遺伝的素因が想定され、年齢に関連する要因以外に明らかではない「特発性てんかん」に分けることで、大きく4つの群に分類されます。

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どんな症状があるの?

突発的な症状一回ごとのエピソードは「発作」とよび、診断の「てんかん」とは分けて考えます。実際には、この発作に関係する脳の部分に応じて、様々な症状が起こり得ます。例えば、「全般発作」は、脳の一部だけに異常があるわけではないが、突発的に起こる症状のことを意味していて、一部の異常部分から生じる「部分発作」と大きく区別されます。症状は患者さん毎に様々ですが、以下の特徴的なものも知られています。

「全般発作」

  • 欠神発作:
    10秒前後の短い意識消失が起こり、その間は今までしていた動作を一時的に止めてじっとしており、再び元の動作にもどります。あまり短いと周囲の人も気づかないこともあります。
  • ミオクロニー発作:
    顔面、四肢などの筋肉がピクッとなるような短時間の発作が起こるものです。
  • 脱力発作:
    頭部や体幹など、姿勢を保つのに必要な筋肉の脱力が短時間に起こるものです。
  • 「部分発作」:
    脳の一部に異常があり、そこから起こる発作を意味します。意識減損を伴わない「単純部分発作」と意識減損を伴う「複雑部分発作(単純部分発作で始まることもあります)」があります。前者の症状には以下の様なものがあり、これらは、原因となる異常部分(発作焦点)の診断につながる重要な情報です。①運動症状:
    手足にけいれんが起こるもので、運動皮質に異常脳活動がおこるためと予測される。また、ジャクソン・マーチと呼ばれるように、連続して伝搬して、けいれんする身体の部分が移り変わることもあります。

    ②感覚症状:
    身体の一部にしびれるような異常な感覚が生じたり、目の見える範囲の一部に異常な光が見えたり、異常な音が聞こえたり、変なにおいがするものがあります。

    ③自律神経症状:
    上腹部の突き上げるような不快感や、嘔気・嘔吐をきたしたり、鳥肌がたったり、急な発汗がみられたりする症状が生じるものがあります。

    ④精神症状:
    既視感(de ja vu)、未視感(ja mais vu)、見えるものが歪んだり、大きさが変わって見えたり、恐怖心が生じたりするものがあります。

    始まりの症状とともに、変化、発作後の様子はてんかんの診断に重要なので、周りの方による詳細な観察や携帯電話の動画記録などが有用です。

どんな治療をするの?

約1000人に4人から9人にみられる慢性的な病気ですが、治療の中心はお薬による治療になります。抗てんかん薬は、脳の異常な興奮やその広がりを抑える薬です。これは、てんかんそのものを治すというより、発作を抑えることで、自然に治りやすい環境にするというものです。そのため、てんかんの治療は、炭の火種を消すことに例えることができます(図2)。

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お薬の選択に関しては、発作型に合わせて有効と考えられる抗てんかん薬がガイドラインに示されています。全般発作に対しては、バルプロ酸が第一選択薬として推奨されています。第二選択薬として、欠神発作にエトサクシミド(エピレオプチマルなど)、ミオクロニー発作にクロナゼパム(リボトリールなど)、強直間代発作にフェノバルビタールが推奨され、クロバザム(マイスタンなど)、フェニトインも候補となり得ます。部分発作に対しては、カルバマゼピン(テグレトールなど)が第一選択薬として推奨されています。第二選択薬はフェニトイン(アレビアチンなど)、ゾニサミド(エクセグランなど)であり、バルプロ酸(デパケンなど)も候補になり得ます。治療とともに、日常生活上で注意が必要なものとしては、危険な場所での活動、入浴、自動車の運転があります。

図2A 何らかの原因で炭に火がつくと、その部分は赤く盛んに火力を増して(=てんかん焦点)、さらに強くなると炎を出して燃えます(=発作)。水をかける(=抗てんかん薬)と、一旦は炎が消えるが、芯の火種はまだ消えていなせん。そのまま放置すると、再び火種が強くなって、繰り返して炎を出してきます。そのために、適切な量と種類の水(=適切な抗てんかん薬)を丹念にかけながら、火種を消していくことになります。

B少量の水をかけ続ける期間は、最低の一定期間(=2年間)に及ぶますが、中途で水をかけるのをやめたり(=怠薬)、風が吹いたり湿度が低くなったりして燃えやすくなると(=過労や睡眠不足)、途中で火種が再燃してきます。一定の期間にわたって水をかけ続けて火種が消えたと確認できれば、水をかけるのを徐々に減らして、最後には中止する(=断薬)ことも可能かもしれません。

手術で治せるの?

一般的に内服薬でのコントロールが可能なことが多く、一部の症例で複数薬剤の使用や外科的治療が適応となります(図3)。成人の場合、適切なお薬を複数使用して2年以上治療しても、発作コントロールが不十分で、日常生活に支障がある状態を「難治性てんかん」と呼びます。

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すべてのてんかんに対して手術が可能なわけではありませんが、いろいろな技術の進歩により、かなりの患者さんが手術可能となってきました。例えば、MRIなどの画像検査で、てんかんの原因となる脳内病変がある場合は早期に手術を検討しますが、画像の異常がない場合でも「難治てんかん」であれば考慮することになります。一般的に、外科治療が可能と考えられるてんかんと治療効果は、以下のとおりです。

内側側頭葉てんかん:
70%強の人は発作が完全消失、20%の人は発作が減り、10%では変わりません。
器質病変が検出された部分てんかん:
約60%の症例で発作を止めることが期待できます。
器質病変を認めない部分てんかん:
手術での発作消失は約50%前後となります。
片側半球の広範な病変による部分てんかん
失立発作をもつ難治てんかん

それぞれに考えられる外科治療選択は以下のとおりです。

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①言語機能に関連がない場合に外側側頭葉も含めて切除する前側頭葉切除術か、内側側頭葉の構造物のみを切除する選択的扁桃体・海馬切除術があります。後者にはいくつかの変法がありますが、当科では機能領域をより温存する側頭下到達法で手術を行っています(図4)。

 


18-3②③てんかんの原因部位で切除すべき「焦点」と機能を持って温存すべき「機能領域」を同定した上で切除術を行う必要があり、頭蓋内電極留置術との二段階で手術を行うこともあります(図5)。


18-4④焦点が広範囲に広がっている側の大脳半球を対側半球や脳幹部分と分離する機能的半球離断術を行います。局所に異常な脳活動が起こっても、他の領域に広がることを防ぐことで発作をコントロールします(図6)。


18-5⑤左右の大脳半球が同時に発作に関連するために倒れてしまうため、左右の大脳半球をつなぐ脳梁を分離する脳梁離断術を行って、コントロールを目指します(図7)。この手術は異常な脳活動自体を抑えるわけではありません。そのため、全ての発作を止めることではなく、倒れる発作の減少を目的に行なう手術です。


以上が開頭手術による切除手術です。この他に、2010年から保険適応となった迷走神経刺激治療という外科治療があります。これは、切除手術の適応にならない場合や、既に切除術を行ったが効果が不十分な場合に治療が薦められます。刺激電流を発生させる装置(図8)を左の胸から腋に埋め込み(図9、画像提供 日本光電)、ここからの電気刺激を首の左側にある迷走神経に繰り返し伝えることで、発作を軽減することを目的にするものです。手術は、左の頚部に切開をおいて、血管の間にある迷走神経を露出して、これに電極コードを装着します(図10)。発作が止まることではなく、50%以上発作が改善する方を治療成功として、効果があることが報告されております。持続的に刺激治療を継続することで、効果のある患者さんの割合は徐々に増すことが判っています。また、手術単独で治療終了して効果がでるわけではなく、定期的な外来通院の経過で、徐々に刺激強度を調整していく必要があります。他に観察された効果として、発作の程度が軽くなる、発作が短く終わる、感情が安定するということも報告されています。

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図8
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図9 画像提供 日本光電
VNSOP
図10

付記

てんかん治療に携わる、お近くの先生を探す

(掲載許諾済)「てんかん診療ネットワーク」

http://www.ecn-japan.com/mod/resource/view.php?id=7

 

頼りになる専門医のいる施設を探す

(掲載許諾済)「てんかん専門医認定研修施設」

http://square.umin.ac.jp/jes/senmon/senmon-shisetu.html

 

(掲載許諾済)迷走神経刺激(VNS)療法

日本光電HP http://www.nihonkohden.co.jp/ippan/vns/index.html

 

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(掲載許諾済)てんかん・運動異常生理学講座のHP

http://epilepsy.med.kyoto-u.ac.jp